最終更新:2026年3月23日(すこし情報を更新しました)
心の哲学を勉強したい人向けに、日本語で読めるものを中心に基本文献を挙げておきます。
・**は最初に読むのにおすすめな本、*はつぎに読むのにおすすめな本です。
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・翻訳には、正確なものもそうでないものもあります。翻訳を読んで理解できないときは、原書も読んでみることをすすめます。
・包括的なリストではありません。時間があるときに随時更新します。
概説書・論文集
心の哲学の入門書としては、まずは金杉さんの本を読んでみるのがよいでしょう。『心は機械で作れるか』は、表象や認知に関する話題が中心で、古典的な心身問題や意識の話はほとんど出てきませんが、比較的読みやすい本です。同じクレインの『心の哲学』は、意識や知覚の問題もカバーしていますが、抽象的・形而上学的な問題について踏み込んだ検討がされているので、心の哲学についてある程度の知識を得てから読むのがおすすめです。『心の現代哲学』も同様です。チャーチランドの本は、ます第2章(心身問題)、第6章と第7章(認知科学の哲学)あたりを読んでみるとよいでしょう。
**金杉武司『心の哲学入門(増補改訂版)』勁草書房、2026年
信原幸弘『心の現代哲学』勁草書房、1999年
クレイン『心は機械で作れるか』勁草書房、2001年
クレイン『心の哲学ー心を形づくるもの』勁草書房、2010年
チャーチランド『物質と意識ー脳科学・人工知能と心の哲学』森北出版、2016年
『シリーズ心の哲学』IとIIの収録論文は、心の哲学の主要な問題についてのややくわしい解説となっており、『心の哲学入門』のつぎに読むものとしておすすめです。
*信原幸弘編『シリーズ心の哲学I 人間篇』勁草書房、2004年
*信原幸弘編『シリーズ心の哲学II ロボット篇』勁草書房、2004年
英語の概説書はたくさんあるので、3冊だけ挙げておきます。どの本も主要な話題は一通りカバーしていますが、Mandikの本は入門的で、自由意志や人格の同一性など、隣接領域の問題もカバーしているので、最初に読むのにおすすめです。Heilの本はより本格的な中級入門書で、Mandikの本では取り上げられていない重要な論点もきちんと論じられているので、本格的に勉強したい人におすすめです。Kimの本は、形而上学的な話題にやや力点が置かれています。
John Heil (2019) Philosophy of Mind: A Contemporary Introduction (Fourth Edition). Routledge.
Jeagwon Kim (2010) Philosophy of Mind (Third Edition). Routledge.
Pete Mandik (2022) This Is Philosophy of Mind: An Introduction (Second Edition). Wiley-Blackwell.
日本語で読める(基本文献を集めた)論文集としては、収録論文は5本だけですが、つぎの本があります。
信原幸弘編『シリーズ心の哲学III 翻訳篇』勁草書房、2004年
さらに本格的な論文集となると、英語のものになります。つぎの2冊が代表的です。どちらにも収録されている論文は、基本文献中の基本文献ということになります。
*David Chalmers (ed.) (2021) Philosophy of Mind: Classical and Contemporary Readings (Second Edition). Oxford University Press.
*William Lycan and Jesse Prinz (eds.) (2008) Mind and Cognition: An Anthology. Wiley-Blackwell.
そういえばこれもありました。ちょっと古いですが、心身問題、とくに機能主義関連の基本論文が充実しています。
*Ned Block (ed.) (1981) Readings in Philosophy of Psychology, Volume I. MIT Press.
参照用の書籍としては、つぎのものが手頃です。『ワードマップ』では、心の哲学の主要なキーワードが数ページで解説されていて、比較的新しい話題もカバーされています。Blackwell Companionは、主要キーワードと重要哲学者について、さらにくわしく解説されています。
*信原幸弘編『ワードマップ 心の哲学』新曜社、2017年
Samuel Guttenplan (ed.) (1996) A Companion to the Philosophy of Mind. Blackwell.
もう少し新しい英語のハンドブックとしては、つぎの2冊があります。
Stephen Stich and Ted Warfield (eds.) (2003) The Blackwell Guide to Philosophy of Mind. Blackwell.
Brian McLaughling, Ansgar Beckermann, and Sven Walter (eds.) (2011) The Oxford Handbook of Philosophy of Mind. Oxford University Press.
心身問題
古典的な心身問題に関しては、あまり日本語で読めるものがありません。やや古いですが、機能主義が登場したころの論文集の翻訳として、つぎの本があります。まあ、これを読むよりは、上のReadings in Philosophy of Psychologyを読むのがよいでしょう。
ボースト編『心と脳は同一かー心言語から脳言語へ』北樹出版、1987年
心身問題に関する個別的な立場に関しては、以下の本がありますが、(ライルの哲学的行動主義とデイヴィドソンの非法則的一元論は)どちらもややマイナーな立場になります。
ライル『心の概念』みすず書房、1987年
デイヴィドソン『行為と出来事』勁草書房、1990年
機能主義者の著作としてはつぎのものがありました。ただし部分訳です。
アームストロング『心の唯物論』勁草書房、1996年
もう少し個別的な話題として、心的因果の問題については以下の本があります。キムの本を読むとわかるように、心身因果の問題はタイプ同一説と機能主義の論争にも多いに関係しています。
太田雅子『心のありかー心身問題の哲学入門』勁草書房、2010年
キム『物理世界のなかの心ー心身問題と心的因果』勁草書房、2006年
志向性
戸田山さんの『哲学入門』の前半部分は、現代の心の哲学研究者の多くが前提としている哲学的自然主義と、志向性の自然化の問題についてのわかりやすい紹介になっています。戸田山さんは目的論的な説明を採用していますが、Cumminsの本はもう少し中立的にさまざまな立場を紹介しており、この分野の概説書としておすすめです。
**戸田山和久『哲学入門』ちくま新書、2014年
*Robert Cummins (1991) Meaning and Mental Representation. MIT Press.
目的論的に志向性を自然化する試みとしては、より本格的な研究書も2冊翻訳されています。ドレツキの本では、意識の問題についてもさまざまな興味深い考察が展開されています。
ドレツキ『心を自然化する』勁草書房、2007年
ミリカン『意味と目的の世界』勁草書房、2007年
命題的態度
信念や欲求といった心的状態によって行動を説明するとはどのようなことなのか、これらの心的状態と脳状態はどのような関係にあるのかといったことがここでの問題です。デネットとデイヴィドソンは、それぞれ違った仕方で、そして単純な心脳同一説や機能主義とは違った仕方で、心的な語り方と物的な語り方を関係づけようとしています。ただし、デネットの文章は翻訳だとニュアンスがわかりにくいので(そしてレトリックを別にすれば英語自体は平明なので)原書で読むことを勧めます。このテーマに関連するのはBrainstormsの第1章やThe Intentional Stanceに収録された諸論文です。デイヴィドソン自身の考えは上で紹介した『行為と出来事』に収録された諸論文で展開されていますが、エヴニンの本はそれをわかりやすく再構成しています。金杉さんの本はデイヴィドソン的な見方をやや反自然主義的な方向に展開した研究書です。『シリーズ心の哲学III 翻訳篇』に収録されているチャーチランドの論文も、この分野では古典です。
デネット『<志向姿勢>の哲学ー人は人の行動を読めるのか?』白揚社、1996年
エヴニン『デイヴィドソンー行為と言語の哲学』勁草書房、1996年
金杉武司『解釈主義の心の哲学ー合理性の観点から』勁草書房、2014年
意識
いわゆる意識のハード・プロブレムがここでの中心的な話題となります。その概要を把握するには、まずチャルマーズの『意識する心』の前半を読んでみるとよいでしょう。(ただし、一次内包と二次内包の話はスキップしたほうがよいでしょう。チャルマーズの英語は読みやすいので、きちんと勉強したい人には原書で読むことを勧めます。日本語で読みたい人は、『意識する心』ではなく、まず『意識の諸相(上)』の第1章や第5章を読むのがよいでしょう。)ネーゲルの本に収録されている標題論文も、ハード・プロブレムに関する古典です。私の本の前半部分は、ハード・プロブレムに関する主要な哲学理論の紹介と批判的検討になっています。
*チャーマーズ『意識する心ー脳と精神の根本理論を求めて』白揚社、2001年
チャーマーズ『意識の諸相(上)』春秋社、2016年
チャーマーズ『意識の諸相(下)』春秋社、2016年
ブラックモア『1冊でわかる 意識』岩波書店、2010年
*鈴木貴之『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう: 意識のハード・プロブレムに挑む』勁草書房、2015年
ネーゲル『コウモリであるとはどのようなことか』勁草書房、1989年
この問題に関しては、研究書もいろいろあります。
信原幸弘『意識の哲学ークオリア序説』岩波書店、2002年
山口尚『クオリアの哲学と知識論証ーメアリーが知ったこと』春秋社、2012年
デネット『解明される意識』青土社、1998年
デネット『スウィート・ドリームズ』NTT出版、2009年
ドレツキ『心を自然化する』勁草書房、2007年
意識を自然化する立場の文献としては、『シリーズ心の哲学III 翻訳篇』に収録されているハーマンの論文、上のドレツキの本、そして次の本が代表的です。Chalmers 2002とLycan and Prinz 2008などにも収録されている、David Rosenthalの諸論文も基本文献になります。
*Tye (1995) The Ten Problems of Consciousness: A Representational Theory of the Phenomenal Mind. MIT Press.
より新しい話題については、つぎの本に収録された諸論文が参考になります。
信原幸弘、太田紘史編『シリーズ 新・心の哲学II 意識篇』勁草書房、2014年
1990年代までの重要論文はつぎの論文集に収録されています。とくに重要な論文は上のChalmers 2002とLycan and Prinz 2008にも収録されています。
*Ned Block, Owen Flanagan, and Güven Güzeldere (eds.) (1997) The Nature of Consciousness. MIT Press.
知覚
近年、知覚に関しては、古典的な心身問題や意識の問題とはある程度独立に、さまざまな問題が論じられています。まずはつぎの本で基本的な問題を理解するのがよいでしょう。
*フィッシュ『知覚の哲学入門』勁草書房、2014年
知覚をめぐるより個別的な問題に関しては、近年つぎのような研究書も出ています。
源河亨『知覚と判断の境界線ー「知覚の哲学」基本と応用』慶應義塾大学出版会、2017年
村田純一『味わいの現象学ー知覚経験のマルチモダリティ』ぷねうま舎、2019年
認知科学の哲学
この分野の中心的な話題の一つは、認知とは本質的にどのような営みなのか、ということです。ここで何が問題になっているのかを知るには、まずはつぎの本を読んでみるとよいでしょう。
**信原幸弘『考える脳・考えない脳ー心と知識の哲学』講談社現代新書、2000年
もうすこし本格的な概説書としては、つぎの本がおすすめです。
*Clark (2013) Mindware: An Introduction to the Philosophy of Cognitive Science, Second Edition. Oxford University Press.
さらに本格的な本としては、以下のようなものがあります。フォーダーとピリシンは記号計算主義者で、チャーチランドはコネクショニズムを支持しています。クラークは、コネクショニズムや身体化された心という考え方を重視しつつ、折衷的な立場を探っています。
フォーダー『精神のモジュール形式ー人工知能と心の哲学』産業図書、1985年
ピリシン『認知科学の計算理論』産業図書、1988年
*チャーチランド『認知哲学ー脳科学から心の哲学へ』産業図書、1997年
チャーチランド『ブレインワイズー脳に映る哲学』「新樹会」創造出版、2005年
*クラーク『認知の微視的構造ー哲学、認知科学、PDPモデル』産業図書、1997年
クラーク『現れる存在ー脳と身体と世界の再統合』NTT出版、2012年
クラーク『生まれながらのサイボーグー心・テクノロジー・知能の未来』春秋社、2015年
もうすこし個別的な話題としては、感情の哲学もあります。
戸田山和久『恐怖の哲学ーホラーで人間を読む』NHK出版新書、2016年
プリンツ『はらわたが煮えくりかえるー情動の身体知覚説』勁草書房、2016年
人工知能の哲学
まずは次の本を読んでみるのがよいと思います。古典的AIと現在のAI両方に関する哲学的問題を論じています。
*鈴木貴之『人工知能の哲学入門』勁草書房、2024年
もうすこし簡単なものとしては次の本もあります。
次田瞬『意味がわかるAI入門ー自然言語処理をめぐる哲学の挑戦』筑摩書房、2023年
この分野に関してそのほかに日本語で読めるものは、基本的には第2次人工知能ブーム期までに書かれたものとなります。『マインズ・アイ』は哲学論文だけでなく、チューリングの論文やSF短篇小説など、さまざまな文章を収録した論文集ですが、コンピュータは心をもつことができるか、という問いにさまざまな角度からアプローチしていて、とても面白い本です。ドレイファスの本は、哲学者による人工知能研究批判の本としてもっとも有名な本です。
柴田正良『ロボットの心ー7つの哲学物語』講談社現代新書、2001年
**ホフスタッター、デネット『マインズ・アイーコンピュータ時代の「心」と「私」(新装版)(上)』TBSブリタニカ、1992年
**ホフスタッター、デネット『マインズ・アイーコンピュータ時代の「心」と「私」(新装版)(下)』TBSブリタニカ、1992年
ドレイファス『コンピュータには何ができないかー哲学的人工知能批判』産業図書、1992年
道徳心理学
道徳に関連する心のメカニズムをめぐる理論的問題や、それが倫理学にどのような意味をもつかということも、近年さかんに論じられている話題です。
チャーチランド『脳がつくる倫理ー科学と哲学から道徳の起源にせまる』化学同人、2013年
太田紘史編『モラル・サイコロジーー心と行動から探る倫理学』春秋社、2016年
現象学
現象学の知見を心の哲学や認知科学に取り入れることも、近年さかんに試みられています。コイファーとチェメロの本は、現象学の入門書としてはやや話題に偏りがありますが、知覚の哲学あるいは認知科学の哲学の概説書としても面白い本です。
門脇俊介、信原幸弘編『ハイデガーと認知科学』産業図書、2002年
ギャラガー、ザハヴィ『現象学的な心ー心の哲学と認知科学入門』勁草書房、2011年
コイファー、チェメロ『現象学入門ー新しい心の科学と哲学のために』勁草書房、2018年
田中彰吾『生きられた<私>を求めて:身体・意識・他者』北大路書房、2017年
経験科学
心に関する経験科学の知見も、いろいろと知っておくに越したことはありません。重要な本・面白い本はたくさんあるので、思いついたら随時追加します。
ラマチャンドラン、ブレイクスリー『脳のなかの幽霊』角川文庫、2011年
グッデイル、ミルナー『もうひとつの視覚ー<見えない視覚>はどのように発見されたか』新曜社、2008年
コッホ『意識の探求ー神経科学からのアプローチ(上)』岩波書店、2006年
コッホ『意識の探求ー神経科学からのアプローチ(下)』岩波書店、2006年
コッホ『意識をめぐる冒険』岩波書店、2014年
バロン=コーエン『自閉症とマインドブラインドネス』青土社、2002年
カーネマン『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上)』ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年
カーネマン『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(下)』ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年
アリエリー『予想どおりに不合理:行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2013年
ハイト『社会はなぜ右と左に分かれるのかー対立を超えるための道徳心理学』紀伊國屋書店、2014年
グリーン『モラル・トライブズー共存の道徳哲学へ(上)』岩波書店、2015年
グリーン『モラル・トライブズー共存の道徳哲学へ(下)』岩波書店、2015年
ダマシオ『デカルトの誤りー情動、理性、人間の脳』ちくま学芸文庫、2010年
ヘンリック『WEIRD「現代人」の奇妙な心理 経済的繁栄、民主誠意、個人主義の起源(上)』白揚社、2023年
ヘンリック『WEIRD「現代人」の奇妙な心理 経済的繁栄、民主誠意、個人主義の起源(下)』白揚社、2023年
下條信輔『サブリミナル・マインドー潜在的人間観のゆくえ』中公新書、1996年
長谷川寿一、長谷川眞理子、大槻久『進化と人間行動(第2版)』東京大学出版会、2022年
セイラー、サンスティーン『NUDGE 実践 行動経済学(完全版)』日経BP、2022年