大学院への進学について

私が所属している科学史・科学哲学研究室では、哲学系の分野としては、おもに分析哲学や現象学を学ぶことができます。私の専門は心の哲学なので、受け入れ学生としては、分析哲学の中でも心の哲学およびそれに関連する諸領域を研究したい人が対象となります。言語哲学や形而上学に興味があれば、科哲には藤川先生がいらっしゃいます。

科学史・科学哲学研究室が他の哲学系大学院と異なる点は、組織上理系に所属していることです。そのため、大学院入試は夏休み前に行われます。院試の内容は英語および専門の筆記試験と面接で、卒業論文は評価の対象に含まれません。したがって、筆記試験で一定の点数をとることが重要となります。ここで過去問を確認できるので、どのような問題が出題されるかを事前に確認してください。

科学史・科学哲学研究室の入試情報については、広域科学専攻相関基礎科学系のウェブサイトを参照してください。

なお、分析哲学を研究できる大学院ということでいえば、関東ならば首都大学東京、千葉大学、慶應義塾大学などもあります。

専門の筆記試験では、分析哲学についての基本的な知識が幅広く問われます。現在では、分析哲学の主要な分野に日本語で読める概説書が複数存在します。おもなものを挙げておくので、試験の前にこれらを読んでおくとよいでしょう。(レベル分けは主観的かつおおまかなものです。すべての分野について詳細な知識をもつ必要はありませんが、専門としたい分野についてはある程度くわしい知識を、それ以外の分野についても、ごく基本的な知識はもっておくことが望ましいです。書名をクリックするとAmazon.co.jpの商品ページが開きます。)

心の哲学
入門:
金杉武司『心の哲学入門』勁草書房、2007年
中級:
信原幸弘編『シリーズ心の哲学Iー人間篇』勁草書房、2004年
信原幸弘編『シリーズ心の哲学IIーロボット篇』勁草書房、2004年
信原幸弘編『ワードマップ 心の哲学』新曜社、2017年

言語哲学
入門:
服部裕幸『言語哲学入門』勁草書房、2003年
中級:
ライカン『言語哲学』勁草書房、2005年
中級から上級:
飯田隆『言語哲学大全I(増補改訂版)』勁草書房、2022年
飯田隆『言語哲学大全II』勁草書房、1987年
飯田隆『言語哲学大全III』勁草書房、1987年
飯田隆『言語哲学大全IV』勁草書房、1987年

認識論
戸田山和久『知識の哲学』産業図書、2002年
上枝美典『現代認識論入門』勁草書房、2020年
ダンカン・プリチャード『知識とは何だろうか』勁草書房、2022年

科学哲学
入門:
チャルマーズ『科学論の展開 改訂新版』恒星社厚生閣、2013年
オカシャ『1冊でわかる 科学哲学』岩波書店、2008年
中級:
伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』名古屋大学出版会、2003年
戸田山和久『科学哲学の冒険』筑摩書房、2005年
ローゼンバーグ『科学哲学』春秋社、2011年
(これら3冊(とオカシャの本)は、それぞれのストーリーの中に科学哲学の主要な話題が配置されているので、たとえばチャルマーズの本を読んでから読むと理解しやすいでしょう。)
内井惣七『科学哲学入門ー科学の方法・科学の目的』世界思想社、1995年(確率に関する問題など、上記の本とはやや異なる話題をカバーしています。)

科学哲学関連の文献に関しては、京都大学の伊勢田哲治さんのHPに素晴らしい包括的な「科学哲学日本語ブックガイド」があります。上の本などを読んで特定の話題に興味をもった人は、ぜひこちらでつぎに読むべき文献を見つけてください。

生物学の哲学
入門:
森元良太・田中泉吏『生物学の哲学入門』勁草書房、2016年
中級:
ソーバー『進化論の射程ー生物学の哲学入門』春秋社、2009年
ステレルニー、グリフィス『セックス・アンド・デス』春秋社、2009年

倫理学
入門:
赤林朗編『入門・医療倫理II』勁草書房、2007年(じつは、この本の前半部分は規範倫理とメタ倫理の概説です。)
赤林朗・児玉聡編『入門・倫理学』勁草書房、2018年(『入門・医療倫理』シリーズの規範倫理・メタ倫理に関する章を再録したものです。)
中級:
伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』名古屋大学出版会、2008年(この本も、じつは規範倫理とメタ倫理の概説書です。)
佐藤岳詩『メタ倫理学入門:道徳のそもそもを考える』勁草書房、2017年

形而上学
入門:
コニー、サイダー『形而上学レッスン』春秋社、2009年
マンフォード『哲学がわかる 形而上学』岩波書店、2017年
中級:
倉田剛『現代存在論講義I』新曜社、2017年
倉田剛『現代存在論講義II』新曜社、2017年

論理学
丹治信春『論理学入門』ちくま学芸文庫、2014年
戸田山和久『論理学をつくる』名古屋大学出版会、2000年

その他

・分析哲学を勉強するならば、おもに英語の文献を(数多く)読むことになります。それゆえ一定以上の英語力は必須です。たとえばTOEFLならば8割以上は得点できるのが望ましいでしょう。(注意:これは大学院入試に関する話ではありません。分析哲学の研究する上での英語力の話です。)英語のネイティブスピーカーではない日本人ならば、英語の哲学論文を正確に読むにはいわゆる英文解釈力も必要です。

・心の哲学を専門とするならば、関連する諸分野(心理学、認知科学、神経科学、進化心理学、進化生物学など)についても積極的に勉強をしておくことが望ましいです。各分野の学部生向けの概論授業で習うようなことは、一通り学んでおくとよいでしょう。

・大学院に進めば自動的に大学教員になれるわけではありません。大学教員になったとしても、自分がやりたい研究だけをできるわけではありません。最近では、このあたりの事情について書かれた本もいろいろあるので、進学を検討する際にはぜひ読んでおいてください。